構造解析に基づく設計支援

剛性向上設計、振動対策

固有振動数とは物体固有の振動であり、機械では共振を避けるために特に重要です。また、固有振動数を求めるのが固有振動解析(もしくは固有値解析)であり、解析結果として固有振動数(固有値)とモード形状が出力されます。モード形状は振動する時の揺れ方(変形形状)を表すものであり、固有振動数とセットで評価します。
機械の設計時によく出てくる問題として固有振動数を上げるという要求があります。目的の大半は共振現象を避けることですが、結果的に強度の増加につながることが多いと考えられます。ただし固有振動数を上げるというのは限られた設計条件の中では難しいことが多いのです。
固有振動数は最も単純な1自由度のバネ・マス系で考えると下記の式になります。
f=(K/M)^0.5/(2π) ・・・(1)
f : 固有振動数 [Hz]
M : 質量 [kg]
K : バネ定数 [N/m]
この式は非常に単純ですが、設計を行う上では大変に有用です。この式を考えると固有振動数を上げるためにはMを小さくするか、Kを大きくするしかないことが分かります。では、順番に考えて行きましょう。

M:質量を小さくする

まず、固有振動数を上げる際に、簡単であるのに忘れやすい方法であるMすなわち質量を小さくすることを考えます。要は質量を軽くすれば固有振動数が上がるという単純な話です。例えば10kgで10Hzの固有振動数の部品があったとします。これを10%軽量化し、9kgにしたとすると、10Hz×√(10/9)=10.5Hzとなります。すなわち、固有振動数が5%向上することになります。ただし、ここで注意が必要なのは上記はあくまでバネの先端に質量がついているような全質量が固有振動数に影響する場合の話です。実際には質量は分布しており、物体の形状によって効果が変わってきます。例えば一部分だけが振動している場合にはその振動している部分だけを軽量化すれば上記のような効果が得られますが、構造物全体が揺れている場合には効果は少なくなります。このような時に固有振動解析の結果として得られるモード形状はどこが揺れているかを把握するために重要な情報となります。
もうひとつの注意点として、軽くするということは断面積を小さくする、板厚を薄くするなど剛性を下げることにつながりかねません。言い換えると軽量化しても剛性(K)が低下して質量の低下分を相殺してしまっては元も子もありません。このような場合は、強度的な観点からも良くない方向となるため留意しておく必要があります。
さて、上記のような注意点はありますが、「軽量化」というのは使用する材料も減るし、それでなくとも多くの場合に機械は軽くすることが求められるため、固有振動数向上のための対策としては大変望ましい対策と考えられます。

K:剛性を上げる

次にK、つまり剛性を向上する方法について考えて行きます。こちらの方が具体的な方策としては多岐に渡り、実際の設計例としても前述の軽量化よりもはるかに多くあります。Kを上げる場合には更にいくつかのケースに場合分けを行うと考え易くなります。たとえば下記のようなものが考えられます。

材料の剛性を上げる

これは一番手軽にできる方法ですが、鉄系の材料(炭素鋼、SUS等)を使用している場合にはそれ以上の縦弾性係数を持つ材料が必要となり、難しくなります。アルミを使用している場合には鉄系の材料とするなどの選択肢が出てきますが、一方でアルミを鉄にすると密度が2.8倍となり、質量が大幅に増加することに注意が必要です。
なお、このような場合に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を使用すると質量を減らしてなおかつ剛性を向上できる可能性があります。

部材の剛性を上げる

単純なケースとしては部材の断面積を増す、板厚を増すなどが考えられます。例えば片持ち梁の固有振動数は断面2次モーメントが関わります。したがって断面2次モーメントを増加させれば固有振動数も上がります。 また、平板の面外モードは平板にリブを追加することで向上させることができます。これは部分的に板厚を増加させるのと同じことです。

振動しているところを拘束する

最も単純な話としては片持ち梁は両持ち梁にするだけで固有振動数は飛躍的に上がります。ただ、実際の構造物には設計上の制約条件があり、そう簡単ではありません。ただし、モード形状をよく確認してどこが振れているかが分かれば、対策が可能なこともあります。対策の基本はモードを良く確認して腹になっている(モード変形が大きいところ)を拘束することです。逆にモードの節になっているところを拘束しても固有振動数の向上は期待できないので念のため。

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